『マーケット感覚を身につけよう』

 

近年、論理的思考、ロジカルシンキングについてはビジネスマンの間にもかなり普及してきた。

会社にいてもロジックツリーやMECEに始まるフレームワークに触れる機会も当たり前になってきたと感じる(正しく運用できているかは別だけど、、、)

 

この本は、物事を考えるための論理的思考とは別のアプローチ、“マーケット感覚”の必要性にについて説いたものだ。

 

まず“マーケット”とは何か。
不特定多数の売り手と買い手が、互いのニーズを満たす相手とマッチングされ、価値を交換する場所である。
その定義に当てはめれば、就活市場や婚活市場も“マーケット”と言える。

 

マーケットを構成する要素として、取引される価値、需要者、供給者、取引条件があるが、このうち「提供する価値」が最も重要だ。

 

“マーケット感覚”とは「顧客が、市場で価値を取引する場面」を、「直感的」に思い浮かべマーケットで何の価値が取引されているかを理解することがことである。 


「提供する価値」を論理思考で導くことはできるだろうか?
できないことはないが、概念的なものが対象となるためハードルは高い。マーケット感覚で考えた方が簡単である。そして、マーケット感覚は論理的思考と同様に身につけることができるスキルである。

 

社会の市場化と市場の統合によって、従来の市場における取引とは大きくゲームのルールが変わってきている。ゲームのルールがどう変わったのか見極める力がないと、生き残ることは今後どんどん困難になる。よいものを作ればうれる時代は終わった。

 

このような状況はキャリア形成においても当てはまる。
一般的な職業では、物が売れなくなればそれに連動してその職業に対する求人も少なくなるが、医師・弁護士など政策によって供給量(有資格者)の数が変動する職種は時に需給のバラインスが大き崩れる。難関資格を持っているといっても安定できるわけではなく、”マーケット感覚”を駆使し、市場の動向を見極める力を身につけなければならない。

 

マーケット感覚を持つと、これまでとは違うものが見えるようになる。

市場とは無縁と考えられているNPOなどの活動においても、市場のメカニズムは存在する。どうやったら寄付をもらえるか、勝てるストーリーを考え、寄付者に伝えることができなければ、必要な資金は集まらない。

 

必要なのは特定のハードスキルではなく、今後何が必要とされるか読む力、マーケット感覚である。

 

高度に発展した資本主義国では、これまで価値と認められなかったのも価値と認められるようになる。ただしその価値が即座にマネタイズできるかは別の話。マネタイズは方法論であり、重要なのは価値である。すぐにはマネタイズできなくても、本当に価値のあるものを直感的に見極める力が重要。

 

普通の人でも売れる価値を持っている。甲子園然り、AKB48然り、もともと存在していたモノの中に新たな価値が見いだされ、巨大な市場になったものがたくさんある。この潜在的な価値に気づけるのがマーケット感覚のある人である。

 

これからの社会は、どんどん市場化していく。それを避けることは、もはや不可能だ」

 
この重要な”マーケット感覚”は一部のセンスのある人間のものだろうか?
そんなことはなく、われわれのような”普通の人”でもこの感覚を鍛えることができる。

 

プライシング能力を身につける。

すでに値札のついたものについても、自分の基準に基づき値付けをしてみる。
その際、商品価格の相場や商品の生産にかかったコストに基づいて値段を決めるのではなく、自分にとっての価値で値段を判断する。
そこからどんな人がこの価値を求めるか、誰に向けて売れば最も高く売れるか考える。

 

インセンティブシステムを理解する

人がある行動を取った際、その行動の背景となる要因はなんだろうかと考える。

政治家の不正が起こった際など、「金のためだ!」と決めつけるが、インセンティブシステムはそんなに単純ではない。行動を取った自分自身ですら、なぜその行動を取ったのか正確に把握できていないことすらある。インセンティブシステムを理解するには、普段から自分の欲望に素直になること。自分のなかの”欲望センサー”が高まると他人の欲望(インセンティブ)の動きも敏感に感じ取ることができるようになる。
ここは特に印象的な部分だが、著者は規制で行動を規定するのではなく、インセンティブをうまく活用すべきと説く。また、規制を気にしすぎるあまり、欲望を押さえ付けてしまっている状態を“規制脳“という病気として批難する。

 

市場に評価される方法を学ぶ

市場に評価されるには、従来のように特定の組織において上司など誰か1人の属人的な評価を受けるためのスタンスから大きく変えるひつやうがある。なにかを始めるまでに「作り込む」のではなく、「とりあえずやってみる」ことで早く市場のフィードバックを受け、迅速に改善していく姿勢が重要。「作り込む」能力よりも、迅速な意思決定をする能力が必要になる。

 

失敗と成功の関係を理解する

先述のように、早く試すことで失敗をするが、その失敗を「学び」とし、成功につなげる。

早く失敗することは、従来の「研修」などとならぶメジャーな学び方になっている。

 

市場性の高い環境に身を置く

市場性の高い場所とは、需要者と供給者が価値交換したり、インセンティブシステムが大きく働く場所である。スーパーのレジは市場性の高い環境と言えるが、上司の顔色を伺ってマニュアルに従った仕事をするだけの大企業の管理部門は市場性が低い。

 

、、、、、、、

 

さまざまな「マーケ本」を読んできて、根底に流れる思想はそれらと近しいものを感じた。

しかし、世間の「マーケ本」がその手法を“論理的に思考“し、フレームワーク化しようとしいるのに対しこの本は、あえて“感覚”というワードを用いていることに著者の思いを感じた。

理屈をこねくり回すより、素直に直感的に向き合った方が本質に近づけることも多いものだ。